花も恥じらう?
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


土の色を白く弾くほど、
それは強くなった陽が降りそそぐ空を見上げれば、
一頃のぼんやりした、紗がかかってたようなスミレ色じゃあない、
結構はっきり青と判る天穹は、遠くの高みで微笑っておいで。
乾いた葉も発色のいい明るい若葉も一緒くたにして、
スズカケの梢が落とす陰が、ざわりと撫でたその後を、
雑草とはいえ せっかくの若い芽が無残にも千切られたのは、
公園内では押してくださいと言われている自転車が、
凄まじい勢いで駆け抜けたからだったが、

 「お待ちなさいっ!」

草いきれも青々と、
それは気持ちのいい緑の中、
ぶんっと風を切って回されたしなやかなポールが、
その胴に銀の光を走らせ、端からひょっと大外へ振り飛ばす。
バトントワリングにしては得物があまりに尋長で、
それを手にしたお嬢さんの身長と同じほど。
一見 細長い棒のはずだが、
ぐるんぐるんと器用に回すことで
その尋が届く範囲全部に立ちはだかる楯のようになっており、

 「ちっ。」

立ちこぎで自転車を操っていた男が、
舌打ちをすると、一瞬迷った末に
ままよと突っ込むことを選んだものの、

 「…おバカですねぇ。」

普通の女の子なら、キャアと避けもしたでしょうが、と。
まずは前輪を横薙ぎにぶたれ、
そのせいで進路を変えさせられた車体が真横を通り過ぎるところ、
ぐるんと鮮やかにぶん回したポールの先で、ペダル辺りをどんと突いて、
傍らにあったジンチョウゲの茂みへ、
ばさぁっと倒れ込む格好で引き留めた、白百合さんの手際の見事さよ。

 「ヘイさん、普通のってのは何ですよ、普通のって。」
 「おや、聞こえておりましたか?」

背中側の襟ぐりが大胆に大きく開いたカットソーにタイトなスカート。
得物としていたステンレスポールを
肩へとんと担ぐような格好にした態度には、
少々似つかわしくない可愛いいで立ちをした、金髪白皙のお友達へ。
お気になさるなとへらりと笑い、
フレアスカートへ合わせた、
ウエストカットになった麻のジャケットのポッケから
ひなげしさんが取り出したのは、
ゴムに似た素材のリストバンドみたいなの。
それを、自転車ごとつんのめってた
高校生らしい賊の手首にくるんと嵌めてやり、
そこから伸びてる同じ素材らしい緒を、
茂みの手前にあった街灯に、同じようにくるんと回せばあら不思議。
継ぎ目が見えなくなってのぴたりと巻き付いてしまい、

 「な…っ!」

 「引っ張っても千切れませんし
  刃物も通じませんから諦めなさい。」

 簡易ながら、手錠代わりのようなもの、
 すぐにもここいらを管轄にしている署のお巡りさんが来ますから、

 「観念なさい」

ふふんと微笑ったひなげしさんのそんな一言が消えぬうち、

 「畜生っ!」

彼女らへというそれではないらしい、
だがだが十分口惜しげな罵声が
すぐ背後の木立の向こうで沸き立って。
おやまあと顔を見合わせた七郎次と平八が、
花壇で仕切られた格好の向こう側を、
ちょいと失礼と直線コースで横切っての覗き込めば、

 「…っ!」

ミニスカートにサテンのロングブラウスを重ねた、
一見ガーリー、だがだが、
ぶんと飛んで来たこぶしを
半歩だけ身を躱すことで避けたそのまま、
それを軸足にしての回し蹴り、
しなう御々脚もそれは優美にしてシャープに、
相手の肩口へ高々蹴上げて叩きつけておいでの勇ましさよ。

 「ぐ…っ。」

勢いの乗っていた蹴りでバランスを崩したところへ、
逆手に掴んでいた特殊警棒までもが
流れるような畳み掛けで飛んで来たのだから堪らない。
傍から見ると、ちょうど相手の身の前側を
勢いに任せての真垂直に、
壁扱いで駆け上がったような合わせ技にて、
容赦なく叩き伏せての、KOを決めてしまった紅ばらさんこと、

 「久蔵殿。」

平八がぽーんと放って寄越したゴムタイプの手錠を受け取ると、
こちらの賊へは花壇の縁の鋼の柵へとつないで差し上げて。
やれやれと得物の警棒を縮めておれば、

 「…お嬢さんたち。」

相変わらずだねと、頭痛を耐えるようなお顔をした征樹さんが、
悪党退治に奔走したらしき3人娘と
さして変わらぬような年頃のお嬢さんを連れて、
やっとのことで追いついて来て、

 「何ですよ、そんな顔して。」

 「そうですよ?
  佐伯さん一人で3人も追っかけるのは無理があったでしょうが。」

それにそちらのお嬢さんを保護する必要だってあったんだもの、
これぞ適材適所ですよと、
そりゃあすらすらともっともらしいところを述べてくれる彼女らなその上、

 「で、盗まれたブツは、ちゃんと拾って確かめてくれましたか?」

ここで平八がちょいと小声になったのは、
ご同行願ったお嬢さんが真っ赤になるのを見越したから。

 『白昼堂々と下着泥棒なんて、正気の沙汰とは思えません。』

女性ばかりの専用マンション。
その中庭からだろう、勢いよく飛び出して来た自転車集団にぶつかられかけ、
何だなんだとキョトンとしたのも束の間、

 『待てっ!』

声こそ放ったが、そこから自分も続くことで追うのはちょっと無理だった、
警視庁の佐伯さんの姿が見えたのと。
飛び出して来た彼らが手にしていたものが、
下着や靴下用の小物干しだときっちり確認していたこちらのお3人。

 『…っ。』
 『行くよ、久蔵殿。』

金髪娘ら二人がそれぞれの得物を手へすべり出させ。
そんな彼女らより手早く、そぉれっと思い切り振った手の先から、
蜘蛛男2 公開記念か、
特殊なテグスつきの鉤をひなげしさんが振り飛ばして。
殿
(しんがり)になってた奴の後輪にからませることで制御不能にもってゆき、
そんなカッコで、盗難被害品をまずは取り戻していた彼女らなのだが、

 「佐伯さんが来てたってことは常習なの?」
 「世も末だよね。あんな子供らが、しかもこんな白昼に。」

もっともらしい評を並べるものの、
案外と昼間の方が人の目が少ない場所ってのもあるもんで。
こちらのマンションなんぞ、
安心し切っておいでだった隙を突かれたようなもの、
先日来からいろいろと盗まれていたらしいそうで。
所轄署が訊き込みをし、
防犯のための心得として、カメラを設置した方がいいとかどうとか、
微妙に管轄はズレるのだが、
場所が場所だけにといやな予感がしたらしいお人の差し金で、
佐伯巡査長が指導に来ておればのこの騒ぎだったようで。

 『それが、特に必要に駆られた泥棒ってんじゃなかったらしくてな。』

必要に駆られた泥棒ってのだったらまだマシだったようにも聞こえますが、
なんて揚げ足を取ったひなげしさんへ、

 『そうと思いたくもなるさ。
  ただの度胸試し、
  難しい所から逃げて来られるかってのを自慢し合ってたらしくてな。』

盗むものは何でもいいが、何なら女性の下着ってのはレアじゃね?と、
そんな風に相談がまとまり、盗み出したものはそこいらのごみ箱へ捨てたとか。

 『どういう暇つぶしを思いつきますかねぇ。』
 『女性用下着って結構高いんですよ?』

いやシチさん、怒るのはそこじゃないそこじゃない、と。
珍しくも平八が訂正を入れたほど、
実はこちらのお嬢さんたちも
結構意外なところが斜めだったの、判明したよな一件だったが。

 “…頼むから、GWは大人しくしててほしいなぁ。”

何なら勘兵衛様に
前半か後半だけでも連休を取ってもらうとか、
出来ないもんかなぁなんて。
とうとうそんな無体なことまで望み始めている征樹殿。
人間たちの葛藤なんて知りもせで、
花壇のお花を愛でてのことか、
可憐なアゲハがひらひら舞ってた午後でした。





    〜Fine〜  14.04.15.


  *とりあえず、お元気な皆様らしいということで。
   陽だまりは暑いほどですのに、
   朝晩の寒さは一体何事?
   咳が止まらんくて しんどいたらないですよ、もうっ。

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


戻る